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2008年版/『"TOKIO デザイナーたち"が世界マーケットでは、どのようにみられているのか?』

「平川武治のノオトブログ」/"The LE PLI" ARCHIVESー20」です。
 今回は、『「また始まる、東京コレクションの前に、」と題して、
"TOKIO デザイナーたち"が世界マーケットでは、どのようにみられているのか?』が
テーマです。

初稿/2008-03-11 記。
再稿/2021-06-06~
文責/平川武治: 
 はじめに
 望むと望まないに関係なしにそのカルーセルの中に一度、嵌ってしまえば自然の流れで再び、
コレクション発表の時期がやって来る。これは巴里も此の東京も同じである。
 このコロナ以後の東京でも、"変わらぬ顔つき"でコレクションが継続されている。
その実態は結構、惨めな現実をそれぞれのメゾンが被っているであろう。
 「コロナ以後」とは、"三密"が根幹に社会が変革せねばならぬ状況を押し付けられた。
そこでは、従来の"対面販売"と言う"構造とシステムとその仕掛け"がほとんど機能しなくなった
ことが全てを変革させた。"デパートやセレクト"などがカッコつけていた空間そのものが殆ど
意味をなさなくなってしまった。
 ショーの形式も同じであり、ブランドを売り込むための"プロモーション"としてのショーも
若い世代たちがよりわかり易いあるいは、日常的な"ヴィジュアル"として差し出されてしまった
これによって今後、"ショー"はそれぞれのコレクションを発表するために、過大な費用を掛けて
わざわざ、"パリ詣で"を行わなくてもいいと言う新たな視点も生まれるだろう。
 "パリへ出掛けるデザイナー"と言う、ある種の"プライド"も、ここでも「近代」が生み出した
価値が崩壊するまでに至り始めたと読む方が、今後への"可能性"と"新しさ"読めるであろう。
しかし、送られてくる"パリ ファッションウイーク情報"はその眼差しは微塵もない。

このオリジナル原稿は2007年に書き下ろしたものである。
当然であるが、この時期は「グローバリズム」と言う新たな白人たちの"植民地政策"が時代を
風靡した時であり、"中国"という新たな"顧客"と"工場"という両面のビジネスが起動し始めた
時代でもあった。
 従って、"中国人デザイナー"と言っても彼らは本国から、台湾からそして、香港からやはり、
このパリを目指して来た時代の台頭であり、そんな彼らたちの多くは外国で学んだ学歴を持って
いた。この現実はそれまでの日本人デザイナーたちがパリを目指した状況と環境が大きく変換し
始めた時代でもあった。
 従って、日本人デザイナーたちは、かなり"背負い込んだもの"をたくさん背負って乗り込んだ
デザイナーたちが多かった。だから結局、自分たちも"巴里・コレデザイナー"と自負しその仲間
の一員と、同じように勘違いをしてしまう結果になる日本人参加デザイナーが多くなるのだが
本当に、今ウケていると言われている日本発のデザイナーブランドはどのような状況の元で、
このパリで一人歩きし始めたのだろうか?
 昨年の秋('07年)にまとめたレポートをここで、此の時期にご紹介しよう。 

1)一つの眼差し/"新素材"をうまく使って、アッセンブリッジが上手なデザイナーたち。

 ショーもであるが、サロン参加も含めてその数が多くなった日本人デザイナーたちの"パリ・
コレ"ですが、この上昇気流に乗って、フランス文化庁が主催している"ANDAM"でまた、日本人
ブランド"TOGA"が貰うまでの勢いが生まれる。
 この"ANDAM"とは、フランス文化庁がイニシアティブを取って若き有望視されている2年以上
の"パリ・コレクション"参加デザイナー対象に与えられる新人奨励賞的なものである。審査する
人たちはフレンチ ジャーナリストたちとバイヤーたちであり、彼らたちに認めてもらうことで、
本来の、"パリ・コレクション デザイナー"となる。
 この国は"選ばれないと本来の自由は与えられない。"という"階級社会"と言われる所以が
未だ、残って居る国の一つである。
 多分、日本人デザイナーで一番早くこのANDAMをもらったのは当時、パリ在住だった'90年
初めのあの"シンイチロー・アラカワ"だったと覚えている。
 今回の"TOGA"が貰ったことで日本人デザイナーたちはここに来て一つの段階をクリアーした
感が在る。"TOGA"の場合は『アッセンブリッジが上手なデザイナーたち』という資格を貰った
様だ。
 これは前回も書いたのですが,今は日本人デザイナーたちには"時代の追い風"が吹いている。
この"時代の追い風"とは、「新しい世代の消費者」の登場である。これからこの街パリもそして
他のEUの都市に住むイミグレーター(移民)たちの新世代層が中心の、新たな消費者層として
確実にこのEUにおいても『大衆消費社会構造』化へ進展して行くことである。
 これは、取りも直さずかつての、'90年代中期以降の"ストリート•ファッション"全盛の日本
の消費状況が重なって見えるからだ。(参照LePli-0号)
 そして、日本人ブランドの優位性とは具体的には先ず進化した"新素材"がウケている時代性。
それらの進化した素材を案外と"簡単・安価"に使いこなせる状況を持っていること。そして,
生産構造(工場)が日本であり未だ、"made in Japan"で確りしている事からの"クオリティと
デリバリー"が他の外国人若手デザイナーたちと比べるとすこぶる良い。それにファッション
メディアと情報が発達している所から"コピーや組み合わせ"が巧く出来、"熟せるデザイナー"が
即ち,"器用さ"が生かせるデザイナーたちのブランドであるからだ。
 しかし,オリジナリ性は弱いか、無いが今は、"円安"で価格が適当に買い易い。海外バイヤー
からすると買って店の奥のハンガーラックに釣っておいても、『Made in TOKYO』がセールス
ポイントにもなりほとんど完売すると言う。この状況はメンズもレディースも同じ状況を齎らし
始めているのが現在の"追い風"のもう一つである。
今回の"TOGA"にしても,今回だけで外国バイヤーの方が国内バイヤーより,受注数が多くなった
と言う。(国内40%、海外60%比率)
 
2)『勤勉性と器用性と見栄性』が生む見た目感の巧さ。/
 しかし,冷静に考えてみるとこの状況というのは案外『日本的なる状況』と言えるでしょう。
従来からの『Made in Japan』には決して,モノの本質的な創造は殆ど無かった。
そのオリジナリティは無いか貧しいにしても,その主題の取り方、素材の使い方の上手さと巧さ
で即ち,"工芸的"に使う事でオリジナルものより、以上に装飾的に使いこなしてその結果、それ
そのモノを"オリジナル"としてしまうことが即ち,『Made in Japan』であったはずだ。
 これは,オーバーな言い方をすると,『日本文化の本質』かもしれない。僕たちが使っている
漢字に対しての仮名の関係も然り,磁器と陶器の関係,漢画と大和絵そして,琳派の関係等など
 最近でのIT機器類にしても,ケイタイの本体の特許部分はサムソンが押さえていてそれらを
使ってのアッセンブリッジが多種多様化されたものが上手、得意分野という事も考えれば、
これが,元々の『日本人の作る』という事に対するオリジナリティ性と理解出来る。
 日本人らしさの『勤勉性と器用性と見栄性』が生む見た目感の「創造の世界」がこのモードの
世界へもやっと,ここ60年をへて辿り着いたのかと考えられる。この日本的創造の世界の本質
には『素材』へのこだわり観と,日本人の特質性である『器用性と見栄性』とその「見た目感」
の関係性が日本的に存在するある種の法則を考えてしまう。これらも,戦後からの『豊かさ』の
発展,進化の結果がもたらした今後,日本人の若い世代に期待するべき所でもあろう。

3)そんな彼等たちはどのような構造でビジネスを行っているか?/
 最近の現実の一つに、多く開催されている"サロン"への出店が増えている。
"サロン"とは日本で言えば、"展示見本市"である。巴里のサロン数は大きなもので10サロンを
超える。
 それらのそれぞれのサロンで、自分たちのテイストとレンジが合うところへモノと自分たちが
行って出店する初期的な構造からスターとしているブランド。
 もう一つは、巴里の"バイニング・エージェント"と契約をして彼らたちのオフィスや会場で
展示受注を行っているブランド。この場合の契約チャージは13%〜18%のセールスコミッシ
ョンを支払うのが基本である。彼らたちに任せば、従来からの良い顧客をエージェント自体が
持っているのでそれらが自分たちの顧客になる念いをかけて任せる。これらのブランドは基本的
にショーをやり、その後の営業活動を現地の"バイニング・エージェント"を外付けとして海外
ビジネスに賭ける比較的経済力のあるブランドメゾンとなる。

4)海外バイヤーたちにどのような受け取り方や格付けがなされているのか?/
 ビジネスを中心に考えると、これからより"将来性と可能性"がある日本ブランドという感想。
メインのブランド商品ではないが仕入れて店に置いておくと売れてしまうというサブ的なもの。
 これは価格帯とデザイン性そして、デリバリーとそれなりのクオリティから安心できると言う
ここでも、日本人らしさの善いところが認められての評価とバイニングであろう。
 それに、追い風としての話題性ある「新素材と東京」が今はウケていると言う。

5)彼らたちが世界のメインブティックのメインブランドになるためには?/
 世界にもそれぞれの都市における"一番店"がある。当然、"世界を目指す"と言うことは、
できれば、これらの"世界版一番店"に買ってもらいたい、取引をしたいが究極の目的になる。
 その為には、"サロン"出展から次は"ショー"へ、と言う新たな道が待ち受けている。
その時にどれだけ、"コストとリスク"を掛けて、『明日』を指させられるクリエーションと
イメージングが発表出来るか?
 そして、それなりの世界レベルのメディアとジャーナリストたちに気に入ってもらい取り上げ
てもらえるか?と言うまでの"現実"のために、「資金と才能と創造性とチーム力」が使えるか?
 これでやっと、念願の「パリ・コレ デザイナー」と言うプライドが持てる!!
(最近のブランドで、このサクセス・ストーリーを地で行ったのが"SACAI"である。"SACAI"の
場合、イタリーのエージェントとの関係が壊れた結果、独自で展示会を行って来たが、バイヤー
たちからの「もうそろそろ、ショーをやってもいいんじゃない?」と言うバイヤーたちのバック
アップでショーをやるようになり現在に至っている、稀に見る日本人ブランドである。)

6)日本のファッションビジネスとブランドの利点と欠点/
 思いつくままに箇条書きしてみると、
*素材が豊富。特に新・高品位繊維。
*まだ、国内生産に頼れる構造が残っている。
*出来上がりクオリティがよい。
*デリバリーがきちんとしている。
*市場が大きく、動く。
*メディアのホロがいい。
*消費者が成熟しはじめている。
*プライス面がこなれている。
*売れ線、トレンドものしか作らない。
*クリエーションにおける冒険はあまりやらない。
*ファッション教育構造が特化している。
*"ONE POINT DESIGN"が出来る。即ち、売れるコツをデザイン出来る。
*手先の器用さで"SPECIAL"が出来る。
*コーディネートファッションが上手。

7)今後の課題は将来性を指差すこと/
 総体に売れるものをきちんと作る事がうまく、それ以上の冒険、可能性そして、独自性を打ち
出しているブランドはまだ少ない。
 トータルで結果、スペシャル性又は、アヴァンギャルド性又は、クラフト性におけるそれぞれ
の"高品位性"を目指すこと。そして、デザインされた"服"に「文化」が感じられ、「美意識」が
感じられるものに挑戦してくれる心意気とレベルが欲しい。
 これが無ければ、世界レベルのファッション・ジャーナリストや彼らのメディアを驚かす事は
出来ない。

8)肩を並べる外国人デザイナーたちは彼等たちをどのような眼差しで見ているか?/
 海外の若手デザイナー達の羨望の的は、ここまでやって来れるブランドであるからそれなりの
資金的な現実が先ず、外国人若手より有るのでそれにジェラシーを感じる。
 次は、素材入手と生産構造が身じかでしっかりしたところが残っていると言う現実のインフラ
は実際に量産"商品"を作ること自体が難しい彼らたちの現実にはとっても羨ましいこと。
 結論としては、現在のNew-Generationsたちは完全に『CONSUMING-DECADENCE』の
落とし子たちである。従って、ファッションを売る事、売りたいという事には早熟であり、この
15年程でかなり成熟した日本ブランド群である。特に、男物はかなり、世界に通じる事が可能
であり、そのサンプリングに『ウラ原』系が有る。それと、劇画、TVゲームからのイメージング
ソースは今や世界規模で共通のコンテンツになっているので女物のテイストやモード観の違いが
まだ存在する女物の世界よりは男物はやり易い状況がある。
 それとこの10年間程で、この世界も海外留学生が増え、彼らたちが帰国後やはり海外を目指
し始め、それによっての語学力の進化も大きな要因で世界マナーを身につけ始めたとも言える。
 弱点は、ビジネス構造としてのスタッフ人材に弱い。これからは彼らたち、世界に通用する
ファッションビジネスマンの養成と教育する事が課題である。ここには"語学力+ビジネスセンス
とスキルと関係性"が問われる。
 ある意味で中途半端な"作り手志向"よりも今は、ビジネス力を持つ事が"鍵"であろう。
多くの日本人デザイナー達が巴里の"サロン"へ出展するレベルのブランドでは、どんなものを
どんな人が買うかが解らないまま進出しているブランドさえ有る。
 現在のままで往くと、あの1987年の『原宿コレクション』参加ブランドがいつの間にか
その後、"DC"ブランドという名称をマスコミから貰って創造性豊かなデザイナーブランドの横に
並んでしまう状況の"巴里版"を考えてしまう。
 そして最後に、国内における"ファッション・ジャーナリズム"を気骨在るものへ成熟させる事
も大切な作り手への知的ホロであり、この批判精神も必要であるはずだ。

9)最後に、/
 現在の日本人ブランドとデザイナーたちの"ブランド進化"のルーツ的キーワードを羅列すると
「オタク=STUDENT CONSUMERS=販売バイト/フリーター=オリジナルものと称した
コピーもの=T-SHIRTS、靴、帽子、アクセサリー、皮小物、シルバージュエリィーなどや古着
の販売そして、トータルブランド展開と次なる、彼ら達の『夢』としての海外進出。」
 このような、日本人デザイナーたちにとっては『追い風』が吹いています。
この風を上手く利用して"風力発電所"的構造と機能を世界へ、アジアへ向けて"夢"とともに気概
豊かに、デザイナーやブランド企業も公的機関もそして役人たちも揃って"モードのリアリティ"
を直視して彼ら達の新たな可能性へビジネス戦略を構築して行って欲しいものである。 

文責/平川武治/昨夏執筆文:
初稿/2008-03-11:
再稿/2021年6月:

投稿者 : take.Hirakawa | 2021年7月30日 15:00 | comment and transrate this entry (0)

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